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別荘地のギャラリー

井上孝治という写真家をご存じの方もおられると思うが、私は最近になって知った。
天神の文房具店でポストカードを見ていて、こんな写真を撮っていた人がいたのかと思う程度であったが、後日、本屋さんで写真集を見つけ感激させられた。戦後しばらくした昭和30年ごろ主に地元福岡の春日市を中心に生活に密着した人達、特に子供たちの様子を見事に活写している。人々の動き、表情が見事にスナップされ、また画面のバランスが絶妙に切り取られている。
井上は3歳の時に事故で聴力とともに言葉を失くした。父親から買ってもらったミノルタフレックスで写真にのめりこむようになったという。音を認知しないことが見るという感覚をより研ぎ澄ましたのであろう、人々の小さな動きや感触を見逃さずにとらえている。90年にはパリ写真月間に出品、93年にはアルル国際写真フェステバルに招待されるほど、その人間味のある作品は世界的にも評価を得ていたが、その年に74歳で亡くなっている。
数日前、井上孝治写真館を訪門した。少し大袈裟な言い方になったが、場所は福岡の都心からは離れた糸島郡志摩町野北にあるスコーレヒル内の別荘敷地内にある。やはり写真家でブルックスタジオを運営されている息子の一さんが別荘を建てる時にギャラリーにすることを思い至ったそうだ。テラス越しの眼下に広がる玄界灘の素晴らしい眺め。周りの樹木からは鳥のさえずりが聞こえてくる。都会の喧騒とはかけ離れた別世界がここにある。並べられた昭和30年代の世俗をスナップした写真は、その時代の空気へとタイムスリップをさせてくれる。この特異なギャラリーは、週末のみで予約が必要。入場料は800円だが、行ってみるだけの価値がそこにはある。
                  Akira.m


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